保守的な考えを持つルーラルエリアでの学校運営

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※機関紙JOY104号で誤植があり大変失礼いたしました。こちらが記事の全文です。

ルーラルエリアでの学校運営

ワフィル・カーン
ジョナキ小学校運営責任者

ジョナキ小学校のはじまり

18年前に私の父がESAや地元の人々と協力して、バングラデシュの人口の6割が暮らす貧困にあえぐ村の一つ、チャーラキヤ村にジョナキ小学校を開校しました。
緑豊かな田園風景が広がり、鳥のさえずりが聞こえるのどかな場所ですが、人々は、集落にある一つの井戸から水をくみ、池で洗濯し、薪を拾い火をおこす、そんな毎日が繰り返される典型的な村落のひとつです。学校や病院などの公共施設も数が少ない上に交通の便が悪く、農作業、オートリキシャ、行商、日雇い労働などで日々の生活をどうにか賄う生活です

知らなかった村落生活

バングラデシュの第2の都市・チッタゴンの町で生まれた私は、ルーラルエリア(村落部)の生活を全く知らずに育ちました。ジョナキ小学校には町の大学生が毎年インターンシップとして活動に加わりますが、彼らの第一声が、「こんなところがバングラデシュにあるなんて知らなかった。」なのです。
それほど都市部と村落部の生活も、ものの考え方も同じ国とは思えないほど異なっています。

村落部の考え、慣習とは

村落部では因習、習慣、男女の社会的役割、文化、宗教などに由来する古くからのしきたりが大切に守られ、人々は同じ考えのもと協力し合って暮らしてきました。例えば、結婚や葬儀は来た人みんなに食事を振る舞う、女性は外へ出ず、良い妻、良い嫁、良い母として家庭の仕事に専念する。女性は父親や夫に従い、結婚も親が決める、幼い頃から子どもたちは家事をよく手伝い、男の子は10歳くらいから近くの店の手伝いなどをして家計を助けるなど、家族みんなで日々の生活を支えています

教育面について。ジョナキ小学校の役割

都市部では教育熱が高まり、受験競争が激しくなると共にレベルの高い学校が増え、ほとんどの子どもたちが高校や大学に進学するのに対し、村落部では、小学校ですら地域の子どもたち全員が学ぶことのできる施設も教師も不足しているのが現状です。
公立の小学校も全くの無料というわけではなく、学ぶ希望を持ちながらも学校に通うことが困難な子どもたちを受け入れているのがジョナキ小学校なのです。

直面する困難、親の理解を深める努力

村落部で学校を開校するときに父たちがぶつかった問題は、村の人々の外部から来る人に対する警戒心でした。都会の地主次第で暮らしが良くも悪くもなる立場の弱い村人は、だまされるのではないか、利用されるのではないか、都会の人を簡単には信用できないと考え、その不信感を払拭するには多くの時間が必要でした。

子どもたちの成長と共に学校は村人に受け入れられ、なくてはならない存在となりましたが、学校を運営する中で村人の意識の違いに戸惑うこともしばしばです。
遅刻や無断欠席、制服はボタンが取れたままで洗濯もされずに汚れていたり、教材や文房具をすぐに紛失したりする様子を目にすると、どうしたら基本的な生活習慣を子どもたちや保護者に浸透させることができるだろうか、と頭を悩ませます。一番対応に苦しむことは、登下校でけがをしたり、試験に落ちたり、自分の子どもに不平等や不満を感じると、その原因を考える前に、保護者が大勢で学校へ抗議に押し寄せることです。
そこで、保護者会を開き、子どもの健全な成長のために親の協力と理解を求め続けています。地域の人たちを招いて日頃の子どもたちの学習成果の発表会兼ミニフェスティバルも開催し、学校を身近に感じてもらう努力を続けています。

子どもたちのコミュニケーションスキルの強化

昔から同じような生活と保守的な考えを持つ小さなコミュニティーの中で暮らす村人は、自分の考えや意見を多く語らずとも意思疎通が取れていました。そのため違うコミュニティーの違う考えを持つ人々と接したときに、表現の仕方がわからず、考えや意見が伝えづらいことも一つの課題です。
そこで、学校ではライフスキル教育の一環としてコミュニケーションスキルのワークショップを取り入れることにしました。子どもたちが自分で考えたことを、違った考えを持つ人にどう伝えたら理解してもらえるのかを学びます。怒りをコントロールし、相手の気持ちになって自分の思いを伝える方法を子どもたちは次第に身につけます。
様々な知識を吸収した子どもたちが将来、人生の節目で問題に直面したときに自分の気持ちをしっかりと伝えられるようになってほしいと思います。

女性の社会参画

我が国の首相が女性であることからもわかるように、都市部では女性でも大学へと進学、就職し、社会で活躍する姿がよく見られます。結婚適齢期も仕事が安定する30歳ぐらいと変わってきています。地域差もありますが、この地域では成績優秀で将来社会をよくするために働きたい、そのために進学したいという思いを持つ女の子でも15歳までには親の決めた相手と結婚し、家族のために家で働くことが幸せだと強く信じられているのです。

人権が守られ、将来の選択が出来るように

都会と村の考え方の大きな違いは人権に対する知識の差ではないでしょうか。子どもたちには学ぶ権利があり、大人はそれを守る義務があることを子どもも大人も知ることで、子どもたちの学びたいと言う願望を現実につなげることができます。古いしきたりを大切にする社会で暮らす村落部の子どもたちが、人間としての自分の権利を主張する力を付け、結婚する相手も年齢も進学も就職も自分で選択できるようになってほしいと私たちは考えています。

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