未来への道しるべ ~ジョナキ小 20年の歩みと課題~

支援地ストーリー

ジョナキ小学校の外部調査による実施結果

開校20周年を節目としてこれまでの功績者をたたえるとともに、ジョナキ小学校が地域の子どもたちに与えたインパクトや変化などの事業評価、公教育の普及の状況、貧困レベルの変化など学校を取り巻く環境を調べ、今後の学校の運営の方向性を決めるための現地調査を実施しました。

ジョナキ小学校は、バングラデシュの典型的な貧しいチャーラキヤ村にESAを通じて初めて教育の光を届けた学校です。開校以来20年間にわたり、自国の子どもたちを教育によって貧困から救おうと熱い思いを抱く都市部の人、村では数少ない教育を受けた若き教師たち、そして、その思いに賛同し募金活動を行ったESAとが力を合わせて、これまで貧しい村にはなかった斬新で、子どもたち一人ひとりの能力を大切に育てる新しいスタイルの教育によって、この村の子どもたちが将来に夢を持ち、自分自身の人生を選択できるように導いてきました。

調査は、ロヒンギャキャンプでの調査実績を持つチッタゴン大学の調査グループがあたり、2023年9~11月の 3か月間、生徒、卒業生、保護者、教師のほか、地域住民、行政担当者など、多くの関係者への聞き取り調査やデータ収集を行いました。

【ジョナキ小学校のあるチャーラキヤ村とは?】

バングラデシュは日本の約4割の国土に1.7億人が暮らし、平均年収は約15万円、国民の7割が貧困層で、主要産業は縫製業と農業。4~9月の雨季には豪雨が発生し、大きな被害を受けている。国の中に、豊かで発展した都市部と、インフラも未発達で、貧しく取り残された村落部という対照的な「二つの世界」があり、交流はない。

チャーラキヤ村は、海岸近くの湿地約50㎢の米作りの農村。人口28,198人、4,000所帯の読み書きのできない小作農民や船頭、リキシャの運転手、日雇い労働者が平均年収以下で暮らしている。イスラム教を信仰、朝晩モスクで祈る。女性は父親や夫に帰属する存在で、15歳頃に結婚するなど保守的な考えに従って生活する。男の子は10歳頃から農業の手伝いや物売りなどで家計を助ける。                                      

  

20年前ジョナキ小学校開校時に、この村が抱えていた教育の課題

他の村落部と同様に、公立の小学校は不足し、暗い教室の床に年齢が様々な子どもたちが座り、一人の教師から学ぶインフォーマル教育しか選択肢はなく、子どもたちは3、4年で学校をやめてしまうことから、村人の教育に対する関心、期待、評価も低く、識字率は非常に低かったのです。

公立の小学校は、長い通学距離のほか、完全に授業料が無償ではない上、教師や教室の数の不足、希望者全員が入学を許可されない、中学進学に必要な学力も身に着かない授業内容など否定的な面が多く、教育が普及しませんでした。また、新聞や書籍などから情報を得る手段もなく、若者も閉鎖的な村社会の保守的な価値観に縛られ、広い視野を持つことができず、貧困の連鎖から抜け出す方法を考えることができないままでした。

調査で明らかになった主な成果

今回の調査では、ジョナキ小学校は次のような3つの点において「学び、成長する場」を提供し、地域の子どもたちに大きな変革をもたらしたことが明らかになりました。

1.教育の質と学習環境の向上

学校のなかった村に、サイクロンシェルターとしても機能する3階建ての校舎が建設され、安全な教育環境が整いました。 貧困層の子どもたちを優先的に受け入れ、学費、制服、給食が無償で提供され、保護者は金銭的負担なく子どもを学校に通わせることができました。

2.地域社会への波及効果

ジョナキ小学校は保護者への教育により、子どもの進学に対する期待が男女問わず大切にされるようになってきました。また、地域内の学士課程を修了した教師を採用し、研修を重ねることで質の良い教育が提供できたことで生徒の習熟度が向上し、中学校進学者が増加しました。

また、読書習慣やライフスキル教育を通して子どもたちの情報量が増え、社会や世界への理解が深まり、自分の意見を持ち、発表するなど、コミュニケーション能力が向上し、大人に自分の将来についての考えを話せるようになるなど、保守的な村の考え方に大きな変化をもたらしました。

3.子どもたちの未来の選択肢を広げる成果

開校数年にして、卒業生全員が全国共通卒業試験に合格し、中学校に進学できたことは当初の目標を大きく超える成果でした。彼らは中学・高校で高い評価を得て、ジョナキ小学校の教育の質の高さが証明されました。中には将来の目標を持ったことで貧困に打ち勝ち、大学に進学、エンジニア、教師や会社員など、安定した職業に就き、家族の生活を向上させた者もあり、村人の生活水準にも変化をもたらしました。

最近では、国立大学や医科大学に合格する女子の卒業生も現れ、女子生徒にとってそのような先輩の存在が目標となり、将来の夢を具体的に描けるようになりました。早婚を親から強要されるのではなく、看護師や医師などを目指し進学を実現できるようになり、女子教育の重要性が認識されました。

チャーラキヤ村の現在の経済状況

保護者の職業や収入も調査により現状が明らかになりました。

月収がわずか5,000タカ(6,000円)以下の特に厳しい環境の家庭の子どもが12%、10,000タカ(12,000円)以下の貧困レベルにある家庭が76%をも占めています。生活が安定しているのは250人中30家庭しかありませんでした。

貧困レベルにある家庭の父親の職業は日雇い労働、漁師、船頭、小作農、人力車夫で、比較的安定した収入があるのは親が工場に就職できた20家庭と雑貨店などの自営業の10家庭でした。

大半の母親は、農家以外は専業主婦であり収入を得ていませんが、家政婦や工場労働者として家計を助けている母親が250人中90人ほど。中にはジョナキ小学校で縫製を習い、縫物で収入が得られるようになった母親が17人いました。

地域の教育状況

地域の学校の状況に関しても多くの事実がわかりました。

今年、チャーラキヤ村がユニオン(郡)に昇格し、ジョナキの小学校通学圏の第9区には、320人の小学校就学年齢の子どもがおり、大半は区唯一のジョナキ小学校に在籍していますが、90人が未就学であることがわかりました。また、中学校の在籍数も低く、就学年齢の460人のうち240人(52%)が中学校を修了できていない現状も判明しました。ユニオン全体では学齢期の子ども4,310人中、3,560人しか在学しておらず、教育環境の改善が必要です。

これからのジョナキ小学校の取り組み

調査結果を精査した結果、求められる課題と方向性が見えてきました。

1.ジョナキ小学校の存続の必要性

徒歩圏内に公立小学校はいまだなく、周辺にはまだ90人もの未就学児がいることから、ジョナキ小学校の存在意義は非常に大きく存続の必要性が高いと考えます。

2.校舎の大規模修繕

地盤が弱いこの地域では、雨季の洪水による校舎の損傷が深刻であることが専門家調査で判明しました。安全な学習環境を維持するには、2024年末から2027年にかけて地盤、建物、設備、太陽光発電設備を含む本格的な修繕工事が緊急に必要です。そのため、修繕に向けた募金活動を実施することを決定しました。

3.教育の質の向上と多様化

コンピューターリテラシーや科学技術など、学習効果を高める課外授業の期待が教師、生徒とも高まっています。現行の質の良い教育と総合教育の継続、さらに新しい分野の学びへの変化が必要であり、中学、高校への進学や将来の目標に向かって学ぶ意欲を育てるために、質の良い教育の継続と教育内容の充実を図ります。

4.地域に根差した学校運営に

これまで100%ESAが学校運営費を賄っていましたが、20周年を迎え、地域に寄り添った運営を目指します。 今後5年間で、保護者や地域社会の「子どもの教育への責任」を普及させ、教育に対する意識を高めることに力を入れます。 まずは授業料の一部負担から始め、最終的には地域全体で学校運営を支える意識を育み、地域とともに学校を支えていける体制を作っていきます。

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